2005/04/01
21世紀COE「太陽・地球・生命圏相互作用系の変動学」 2004年度報告書の一部(安成先生執筆)を掲載します。
新しい「地球学」への胎動
拠点リーダー 安成哲三(地球水循環研究センター)
本COEプログラム「太陽・地球・生命圏相互作用系の変動学」も、開始以来2年目の年度末を迎え、これまでの活動を総括し、今後の方針を考えるべき時期にきました。このプログラムが採択された時、21世紀COEの審査委員会から出された宿題あるいは懸念が、「このような広いテーマでの研究・教育における連携と協働をどのように行っていくのか、いけるのか」という内容でした。もちろん、まだ完全な解答を準備できている段階ではありませんが、研究、教育サイドとも、確実に進んでいることが、本報告書でもかなりお分かりいただけるかと思います。
このCOEプログラムは、拠点メンバー教員、研究協力教員、ポスドク研究員およびDC研究員(Research Assistant)がその活動を担っていますが、このCOEを契機として、それぞれのレベルでの、細分化された地球科学の枠を乗り越えて新たな研究を進めようという問題意識と意欲を、私個人はひしひしと感じています。若手の教員とポスドク研究員はこの雰囲気の牽引者であり、すでに30回以上にもおよぶ「横断研究セミナー」や横断的テーマの研究会を開いて、部局や組織を超えた共同(あるいは協働)研究グループをいくつか作りつつあります。科研費などの外部研究資金に共同で申請しようという動きにも、一部は発展しています。
若手が中心になって進めているいくつかの「横断研究プログラム」も、試行錯誤の中で、新しい研究スタイルの芽が出つつあると感じています。博士号取得をめざす大学院生には、あまり寄り道をさせずに狭い分野で効率よく研究をさせるべきだという雰囲気が一方では強くあります。確かに博士課程3年(以内)で確実に学位を取らせるという指導教官の立場になると、どうしてもそのような気持ちにもなります。しかし、より広い視野で「私たちの依拠する地球とは何か」ということを考究する地球学をめざすためには、より長期的な視野と興味を深めて研究を進めるための「寄り道」や「道草」は非常に大事なことと、私は考えています。「可愛い子には旅をさせよ。」という諺は、研究者養成にもそのまま当てはまります。「横断研究プログラム」は、こうした若者の「旅」をほんの少し助ける重要な機会づくりでもあり、「大発見」やブレイクスルーの場を提供してくれる可能性もあります。
20世紀における「細分化」は、地球の理解をそれなりに進めてきた面もありますが、いっぽうで、地球環境問題に代表されるように、地球のトータルな理解の大きな壁にもなっています。21世紀は、地球をもう一度「丸ごと」に、しかも新しい切り口で見る視点が強く必要とされています。物理・化学的地球と(人類活動も含め)生物学的地球の統合も、今後の重要な課題です。この方向を目指す本COEの役割は重大であり、当初の目標に向けて、さらに努力をすることこそが、当面の課題と考えています